なでしこリーグプロ化と相性の悪い、日本のスタジアム環境

なでしこリーグプロ化の話題が出ています。2011年のフィーバー時には、観衆5000人を超える試合もざらにあり、J2に迫る規模だった当時のなでしこリーグ。しかし今やその人気も使い切ってしまい、2011年以前の状況に戻りつつある現状。遅きに失する感は否めませんが、危機感を持って改革しようとする姿勢には、大いに期待したいところです。


とはいうものの、プロ化したからといって、観客が1万人、2万人に増えるとは思えません。今シーズンこれまでの最多観客動員数は、新潟の4682人(Jリーグ共催、単独ではINACの4199人)。平均では1試合1000人を下回ることも増えている状況。それをふまえ、現実的な目標は1試合平均3000~5000人くらいになるでしょうか。この位なら十分達成可能な数字でもあるように思えます。


そこで良い参考になるのがBリーグ。2017-18シーズンの1試合平均は2897人。1位が千葉の5196人で、2位の北海道が3745人。5000人を超えるのが千葉のみで、平均2000~3000人のクラブが大半。この規模でも華やかなプロリーグとして十分成立していて、なでしこリーグでも目指せる数字。


他にもBリーグは、SNSの活用や、女性客の獲得、試合の演出・エンターテインメント性、広告の種類、スマホチケットなどなど、細かい工夫が盛りだくさん。後発である強みを活かした、斬新な発想には感心させられることも多いです。今、日本で一番勢いのあるプロリーグは、最高のお手本と言えるのではないでしょうか。


しかし、サッカーとバスケットボールで決定的に違うのが「箱」。2000人で満員に見えるアリーナに対し、1万人入っても空席が目立つサッカースタジアム。千葉ジェッツの島田社長がTVでコメントしていましたが、「1万人のアリーナを作るより、5000枚のチケットを完売するほうが、クラブの価値がある」とのこと。確かに5000人で埋まった船橋アリーナは、サッカーや野球とはまた違った凄い雰囲気。この「満員の熱気」こそが、Bリーグの価値に繋がっているのです。


そこで懸念となるのが日本のスタジアム環境。Jリーグも1試合平均2万人近い動員力を誇りますが、箱が大きいばかりに空席が目立つ試合も。同じ2万人でも、ガラガラの日産スタジアムと、熱気溢れるニッパツ三ツ沢球技場では、見た目の印象はまったく違いますからね。


それ以上に深刻なのが、なでしこリーグのスタジアム。現状ではメインスタンドのみ開放するクラブも多く、ネット中継で流される映像はほぼ無観客試合。集客する気があるとは思えない、「秘境」での開催も多く、シャトルバスなどの配慮もほとんどなし。なぜか巨大スタジアムで開催する傾向もあるのですが、「ガラガラ感」が強調されるばかり。「見映え」を良くしようという発想は、一切感じられないのです。


そんな中で、なでしこリーグやアマチュアリーグにぴったりなのが「西が丘サッカー場」。サッカー専用で見やすさ、臨場感も文句なし。キャパシティ7000人以上ですが、3000人入れば満員に見える理想的な小規模スタジアム。海外では良く見かけるこの手の小規模スタジアムですが、残念ながら日本では数えるほど。


5000人クラスで4面座席があるのは、「西が丘」と「チュウブYAJIN」くらい。1ランク上がって15000人クラスだと、「NACK5」「日立台」「長野U」「ミクニ」など増えますが、このクラスでも、なでしこリーグでは持て余し気味。それでも現状のスタジアムよりは遥かにコンパクトで、長野の観客動員数1位の要因にもなっています。


かといって、これから小規模の新スタジアムがどんどん増えていくことは考えにくいので、活用したいのが既存の「球技場」。駒沢第二球技場や大井第二球技場、秋津サッカー場や保土ヶ谷サッカー場なども、バックスタンドを増設する程度でスタジアム化できそう。一から新築するよりも、ハードルは低いように思うのですが。


地方にも大きな陸上競技場の隣には、よく球技場がセットになっています。そして男子以上にこだわって欲しいのが「サッカー専用」。理想は見やすくコンパクト、ガラガラの1万人より、熱気溢れる5000人のスタジアムなのです。


アメリカですら2度失敗してる女子プロリーグ化。難しいことは分かっている中で、問われてくるのはリーグやクラブ関係者の経営努力。特に集客に関しては、今までのようなお役所仕事というわけにはいきません。サッカー観戦に適していない、ハンデを抱える日本のスタジアム環境で、Bリーグのように新しい発想やアイデアをどれだけ生み出せるか。選手のプロ化以上に必要になってくるのが、運営スタッフのプロ化なのではないでしょうか。