スポーツ後進国日本への不安
日本代表ベスト8という活躍もあり、大いに盛り上がりを見せたラグビーワールドカップ。1年前のチケット争奪戦の熾烈さから、ある程度の成功の予感はありましたが、ここまで盛り上がりは想像以上でもありました。
日本での大きな国際大会は日韓ワールドカップ以来17年ぶり。その間さまざなスポーツで、「ワールドカップ」と名の付く大会も開催されて来ましたが、そこで目にするのはいつも決まった光景。スタジアムが満員になるのは「日本戦」だけで、他国同士の試合は閑古鳥が鳴く状態。決勝戦ですら客席が埋まらず、他国の試合はテレビ放送すらされない「スポーツ後進国」っぷり。
その国のスポーツ文化は、他国同士の試合会場を見れば分かると言えますが、その点で大いに不安があった日本。はたしてこの国は、ワールドカップのホスト国として務まるのか?
しかし、蓋を開ければどの試合会場も大盛況。心配された地方での試合も、日本代表の活躍とともに、一気にチケットも売れたと聞きます。それを反映していたのがテレビ視聴率。日本戦が40%を超えるのに驚きはないですが、他国同士の試合でも軒並み10%超え、決勝戦は20.5%と高視聴率。この数字は「日本」だけでなく、「ラグビー」自体に興味を持ってくれた証拠と言えるでしょう。
しかし「熱しやすく冷めやすい」のも日本の特徴。「勝てばフィーバー、負ければ衰退」を繰り返している日本のマイナースポーツ。ブームには必ず終わりが来ることは、ラグビー界も4年前に身をもって経験済み。注目を集めている今だからこそ、やれることはやっておいてもらいたいですけどね。
素晴らしかった「柔軟性」と「ホスピタリティ」
心配された運営面でも、予想以上の好印象。もちろん大会当初はビールしか売っていない「食料不足」など問題になりましたが、早々に持ち込み可能に変更するなどの「柔軟な対応」が目立ちました。この辺の頭の柔らかさは、日本的ではないと言うか、驚いたところ。ただ杓子定規に決められたルールを守るのではなく、大会期間中でも改善してくことは、出来そうで出来ないこと。スポンサーの利益保護がからんでいるならなおさら。
そんな中で、「スポンサー」ではなく「観客」に目を向けた対応は、大いに好感が持てました。8月開催に問題があることが分かっていながら、大人の事情によって頑なに時期を変更できない東京オリンピックにも、見習って欲しい姿勢なのです。
ホスピタリティ面も素晴らしかった。僕が観戦できたのは、東京・熊谷・横浜の3会場での4試合。その中で特に印象に残ったのが熊谷。駅を降りるとお祭りムード一色で、ボランティアの人達が笑顔でお出迎え。シャトルバスの誘導にも一切のストレスを感じず、「食料不足」とは何だったのか?と思うほど、屋台村も充実。もっと他の都市のチケットも取っておけばと後悔するほど、「良い思い出」となった熊谷のホスピタリティ。やっぱり「おもてなし」って大事なんですね。
続けて欲しいラグビー独自の観戦スタイル
何より感動したのがスタジアムの雰囲気。通い慣れた東京スタジアムや横浜国際総合競技場が、全く別のスタジアムに感じるほど、異国の雰囲気満点。もちろん外国人サポーターが多いことも要因なのですが、これが本物の「ワールドカップ」の醸し出す空気。試合前からウェーブやサポーター同士の交流で盛り上がり、いつもの「国際親善試合」とは全く違う雰囲気が、最高の高揚感を与えてくれました。
国歌斉唱やオールブラックスの「ハカ」にも鳥肌モノ。特にフランス・アルゼンチン戦で聞いた国歌斉唱は本当にシビれました。大会中は、国歌斉唱で感極まって涙する選手も多く見られましたが、あの場にいたらよく分かる。全く関係ない僕まで、フランス国家の大合唱で、涙が出そうになるくらいでしたからね。
そして、この雰囲気を作りだしているのは、他のスポーツとは一味違うラグビーの観戦スタイル。普段は静かにじっくり観戦し、良いプレーやチャンスの場面で「ワー」と歓声が沸く。メリハリの効いた環境の中、突如として始まる各国サポーターの大合唱。スコットランドのバグパイプなども、お国柄が出ていてワールドカップ感が増幅。普段日本で感じるスポーツ会場とは別世界。日本にいながら「海外気分」を満喫することが出来ました。
日本戦では「日本チャチャチャ」などお馴染みの応援も聞かれましたが、ラグビー独自の観戦スタイルは守られていて、食い入るように試合を見つめる日本サポーター。それにしてもベスト8を賭けたスコットランド戦での熱気と熱狂は、凄いものがありましたよ。
野球やサッカーに代表される、応援歌やチャントを絶え間なく歌う日本独特の「応援文化」。試合前に「応援の練習」までさせられることもあるなど、「観戦」より「応援」の比重が高く感じる日本のスポーツ会場。そんな中で、メジャーリーグやヨーロッパスポーツのような、「本場」に近いラグビー会場の雰囲気は貴重な存在。この先ラグビーがプロ化されたとしても、他のスポーツの影響を受けず、この観戦スタイルを続けていって欲しいものです。
肝心の試合の方は、もうどうでもいいくらい。とにかくその場にいるだけで幸せな気分にさせてくれた「ワールドカップ」。まさに「一生に一度」の思い出になったのでした。
課題や反省を東京オリンピックへ
もちろん問題もありました。未曾有の台風によって3試合が中止。ワールドカップの試合が初めて中止になる「歴史」を作ってしまった日本。会場変更なども検討されたようですが、ここでも「安全第一」の対応を取ったことは評価される点。それでも、その試合のために来日してくれた外国人サポーターや、中止によって予選敗退が決まってしまったイタリアなどには、日本人として申し訳ない気持ちでいっぱいなりました。
地震や台風は日本の宿命とも言える災害。来年の東京オリンピック期間中でも、十分に起こり得る事態。ラグビーワールドカップよりもさらに過密日程の東京オリンピック。この経験を想定して、何パターンものプランを今から作っておく必要があるかもしれませんね。
チケット代が高額だったことや、フットボール専用スタジアムが少なかったことも残念だった点。昨年のロシアワールドカップが全て専用スタジアムだったのに対し、今回の日本は12会場中5会場が陸上競技場。特に2大ワールドカップの決勝戦を、陸上競技場でやらなくてはならないことは、日本の大きな課題。フットボール専用のナショナルスタジアムが出来ることは、フットボールファンの悲願でもありますが、果たして実現する日は訪れるのでしょうか。
現場では他にも問題はあったかもしれませんが、なによりこの「盛り上がり」こそが、このワールドカップが大成功だった証。予想されたほどの入退場時での混雑もなく、外国語での案内板などホスピタリティの充実ぶりを見ても、東京オリンピックの成功も確信できたほど。これから招致を目指している、2023年サッカー女子ワールドカップの、良いアピールにもなったのではないでしょうか。
大会が終わってしまったことに淋しさを感じるほど、「ワールドカップ感」を大満喫できた1ヶ月間。来年には再び、最高の「オリンピック感」を満喫できることを、期待してやみません。
大会採点
ハッスル度 8
見応え度 10
名勝負度 6.5
満足度 10
柔軟度 8
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